歴史・イギリス

アクセスカウンタ

zoom RSS イギリスの下院議員が討議の行われている本会議場に乳児を抱いて着席

<<   作成日時 : 2018/09/14 09:27   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

2018年9月13日、イギリスの下院議員で自由民主党(Liberal Democrats)の副代表(Deputy Leader)Jo Swinson氏が、下院本会議場に6月29日に生まれた第二子を抱いて着席したというニュース。議員が投票時に下院議場で子どもといることはしばしば見られたものの、討議が行われている際には初ではないかということです。

Swinson氏は代理投票についての討議を締めくくる発言が行われている際に、息子と共に議場に現れました。彼女は13日午後1時13分から行われた代理投票についての討論で発言しており(1時43分〜55分の間に3回。議会議事録を参照。リンク→http://bit.ly/2MHbs00)、その際には子どもを連れていませんでした。

代理投票が認められれば、育休中の議員は代わりに投票する同僚を指名できます。Swinson氏は、自身の育休中に自分とペアリング(病気・育児休業・在外といった事情で投票できない議員と対立する立場の議員が共に欠席する取り決め)された保守党議員が取り決めを破って投票したことを批判し、代理投票の審議が遅れていることを皮肉っています(育休中のSwinson氏とペアリングされた保守党議員が2018年7月17日のEU離脱関連法案採決に参加して問題となった件については、本ブログ記事「イギリス議会下院の投票でのペアリング(pairing)をめぐる騒動」をご参照ください)。

発言後にSwinson氏は議場を出て子どもに授乳しましたが、その後、彼はベビーキャリア(ベビーホルダー)の中で寝入ってしまったのです。しかし、慣習によれば、締めくくりの演説の際に彼女は議場にいることが期待されていました。

Swinson氏によれば、選択肢は二つでした。一つは、子どもを起こして20分間[締めくくり演説の時間]ほど誰かに渡す。もう一つは、子どもと議場に行き、着席して害になることをしないでいる(そうすれば、子どもはほとんどの時間眠っている)。(9月14日付BBCインタビュー記事よりSwinson氏の発言を引用→"The options were: wake him up and hand him to somebody else for 20 minutes, or go in and sit down, do no harm, and he stayed asleep for most of it.'')

彼女は、後者を選択したわけです。Swinson氏は、代理投票の必要性を世に訴えるパフォーマンスとして、議場に子どもを連れて行くことを登院時から考えていたのではないか、と筆者は思っていました。しかし、9月14日付BBCの記事からは、議場に子どもを抱いて着席したことは偶発的に生じた可能性も考えられます。

子どもを抱いて着席したSwinson氏に対する議員たちの反応は和やかなものでした。代理投票についての討議で最後から2番目に発言したValerie Vaz氏(労働党)は、赤ちゃんと共にSwinson氏が議場に戻っていることに触れ、赤ちゃんが眠っているのを「私の演説のせいでなければ良いのですが」と言って笑いを誘っています。それをうけて討議の最後に発言した下院院内総務(Leader of the House of Commons)Andrea Leadsom氏(保守党)は、自分の発言は退屈に静かにして[赤ちゃんが起きないように]誰かを笑わせることがないよう努めたい、と述べています。また、女性で最も長く下院議員を務めている労働党議員がSwinson氏のそばに座り赤ちゃんの頭をなで、議長は母子が議場を去る際に言葉をかけたとのことです。

この件から思い浮かぶのは、2017年11月22日に熊本市議会議場に生後7カ月の長男を抱いて着席した緒方夕佳市議のことです。議長側は「傍聴人はいかなる事由があっても議場に入ることはできない」との規則に基づいて長男の同伴を認めませんでした。そして、議会事務局職員らによる退席要請を緒方氏は拒否し、本会議は約40分遅れで始まったのです。11月29日の議会運営委員会で文書での厳重注意が決まり、長男を連れて本会議に出席しようとした緒方氏を12月12日に議長は文書で厳重注意しました(事前に議運に諮らず、規則に反して乳児を連れて着席した結果、開会が約40分遅れたことに対し、二度とないよう求め、今回の行為を「極めて重大な問題」と指摘し「十分に反省」するよう求めている)。2018年3月12日に熊本市議会は会議規則を変更し、乳幼児など子供を連れての出席は事実上認めないことが明文化されました。
[朝日新聞「乳児同伴の熊本市議、議長が厳重注意「事前に諮らず」」(2017年12月12日12時59分)
https://www.asahi.com/articles/ASKDD36TMKDDTLVB001.html
[毎日新聞「熊本市議会 乳幼児同伴は禁止 会議規則変更へ」(2018年3月10日9時49分(最終更新3月10日9時54分))
https://mainichi.jp/articles/20180310/k00/00e/040/220000c

国も政治文化も異なるので、安易な比較は禁物ですが、Swinson氏の場合は、なぜ同僚議員から受け入れられたのでしょうか。いくつかの理由が考えられます(以下は現代のイギリス政治を専門としない筆者の推測)。一つは、代理投票の討議の際に、下院議場にいた議員は少数であり、赤ちゃんが起きて泣き出し討議の邪魔になる懸念は少なかったから、という実務的な理由です。もう一つは、Swinson氏が他の議員に相談して既に理解を得ていた等のことがあって、乳児を連れて議場に入ることが事前に想定されていたから、というものです。そもそも、議場に議員が子ども連れ(今回の場合よりは上の年齢の子どもだと思われますが)でいることは18世紀(当時の議員は男性のみ)にも見られましたから(下記のPaul Seaward氏のTwitter参照)、歴史的経緯を考えても、子どもが議場にいることを日本よりは受容しやすいのかもしれません。

Swinson氏は2005年〜15年、17年から現在に至るまで下院議員。2012年〜13年、14年〜15年に政務次官(Parliamentary Under Secretary of State)を務めた経歴を有しています。自由民主党(自由党と社会民主党が1988年に合同して結成された政党が翌年改称)は中道政党で、2018年9月13日現在の下院(650議席)における第4党(12議席)(https://www.parliament.uk/mps-lords-and-offices/mps/current-state-of-the-parties/)。2010年から15年にかけて、保守党と連立政権を組織していました。

・イギリス下院での代理投票についての審議(2018年9月13日午後1時13分〜[4時16分から代理投票についての締めくくりの発言。午後4時27分から次の議題の審議])
https://hansard.parliament.uk/Commons/2018-09-13/debates/BA13BCB3-EEAD-4DCF-909F-5C40949CF588/ProxyVoting

・BBC
https://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-scotland-politics-45513074
https://www.bbc.com/news/uk-scotland-scotland-politics-45519644 (Swinson氏へのインタビュー記事)

・itv
労働党のValerie Vaz氏(Swinson議員と同じ側にいるので野党)、4時10分からの発言(議事録リンク→http://bit.ly/2QqjbBz)の最後に赤ちゃんに言及。赤ちゃんが眠っているのを「私の演説のせいでなければ良いのですが」(Finally, I wish to recognise that the hon. Member for East Dunbartonshire has returned to the Chamber with baby Gabriel, who is asleep—I hope that that is not because of my speech. Perhaps we should all be quiet.)と言って、笑いをとってます。
http://www.itv.com/news/2018-09-13/liberal-democrat-mp-jo-swinson-makes-commons-history-bringing-her-baby-to-proxy-voting-debate/

・HuffPost UK
映像あり。4時16分からの保守党所属の下院院内総務(Leader of the House of Commons)Andrea Leadsom氏(Swinson議員の反対側にいるので与党)の発言。赤ちゃんを歓迎し「私はとても退屈に静かにして、誰かを笑わせることが全くないよう努めましょう。」(I will also make a short closing speech and welcome baby Gabriel. I shall try to be very boring and quiet and not make anyone laugh at all.議事録リンク→http://bit.ly/2MGIDjY)と述べています。
https://www.huffingtonpost.co.uk/entry/jo-swinson-baby-debate_uk_5b9a8c63e4b01151973bbe30?guccounter=1&guce_referrer_us=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvLmpwLw&guce_referrer_cs=w0zQW9IyC-ibLhnf6q0dyg

・Belfast Telegraph
Swinson氏が子どもの頭をなでている場面、議長席のそばを歩いているところ(退席にあたって議長に挨拶に行くところ?)
https://www.belfasttelegraph.co.uk/video-news/mp-cradles-baby-in-commons-during-push-for-proxy-voting-37314053.html

・Swinson氏の経歴(イギリス議会ウェブサイト)
https://www.parliament.uk/biographies/commons/jo-swinson/1513

・Swinson氏の政府における役職(イギリス政府ウェブサイト)
https://www.gov.uk/government/people/jo-swinson














テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
イギリスの下院議員が討議の行われている本会議場に乳児を抱いて着席 歴史・イギリス/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる